コラム 第5回

図書紹介ブログ「本の好きなこどもを育てる」で紹介させていただいた『ぼく・わたし』は、自他の比較や、自身を肯定的に捉え直していくことがテーマと思われる絵本です。
http://masterofchildrensbooks.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html



作品の紹介と併せて、当塾がその読み聞かせとセットで行っている作文作業についても少し書きました。“客観姿勢”を育むことを目的としたもので、その対象は1~2年生のこどもたちです。

授業に際して上のようにお伝えすると、まれに「難しすぎませんかね…」「うちの子はきちんと考えられていましたか」とお母様方からご不安が漏れてくることがあります。
たしかに、「全体の中の自身について、第三者的視点で把握する」という意味での客観視は、発達段階に鑑みて小学校高学年がテーマとすべきところだと考えます。“社会の中の自分”となれば、中学生のテーマとして相応しいものに発展します。
しかし、急にその段階が訪れるわけでもありませんから、皆ができるようになることを目指し指導する側としては、当然1段1段…というトレーニングを設けることになりますし、本当は各ご家庭でも、そういったことを意識した声掛けや話し合いの機会をこどもたちとの間で持つべきだと考えています。難しいだろうなどと避けていてはいけないのです。そして、実際に難しいということはまったくありません。誰でも、自分を誰かと比べているのですから。


私は、小さな頃から、自分が周りの子たちとは違う顔をしていながら同じ言葉を話すことに、違和感を覚えていました。皆が統一された文化だと感じている中にいる“異質”、マジョリティとしての自分を認識していたのです。鏡の中の自分に話し掛け、自分の口から日本語が出てくるさまを、まじまじ見つめていたこともありました。
一般的に“ハーフ”と呼ばれる人たちの多くは、生まれながらに二つ以上のバックグラウンドを持ち合わせており、そこからくる精神的な“複雑”を抱えたことが少なからずあるものなのですが、日本にいる私も、多文化世界で生きる子たち同様、自らの立ち位置や取りまく環境を把握し、適応あるいは超越していくことを考えなければなりませんでした。

一方、そういった特別な背景のないこどもたちにとっても、さまざまなレベルで自他を比べることは日常茶飯事であるはずです。
その中で、「皆ができること/自分ができること」「わたしが好きなこと/みんなが好きなこと」にはじまり、だんだんと「皆もできないし、わたしもできないこと」「できると思われているけれど、じつはできないこと」「周囲が大切と考えていること/わたしが大事にしている考え」などと考えを発展させていくことは、難しいことではありません。どの年齢の子にも、それぞれにふさわしい客観姿勢の育て方があるのです。
世界がこれだけ身近になり、文化の出入り激しく混沌としつつある日本という国にあって、これから客観視を出発点とした考え方がより求められるようになることは自明ですから、小さな頃からその機会を多く持つことも重要になると思われます。


新しい環境での生活が始まって2週間が経過しようとするこの時期から、5月の連休明け後数週間は、皆が“みんなの中の自分”を感じ始めます。
「ぼくね、~」「わたしね、~」と自らのことをたくさん話してくれようとする年頃のこどもたちとも、すこしだけ“他者と比べる視点”を加えて話し合えるといいですね。今回の絵本はそれを助けてくれるものでしょう。
また、作文も客観する習慣を大いに育ててくれる行為であると考えています。

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